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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(行ツ)54号 判決

上告人 中島建(仮名) 他一一名

被上告人 山崎美子(仮名)

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人江谷英男、同藤村睦美の上告理由第一点について。

家督相続人の遺留分を害する財産留保は、その害する限度で、遺留分に関する規定にのつとり減殺請求権に服するにとどまり、当然に無効となるものではないと解するのが相当である(大審院大正一二年(オ)第二〇八号同年四月一七日判決・民集二巻二五七頁参照)。なお、いつたん確定日付ある証書によつて財産留保がなされた以上、たとえその後において右証書が紛失しても、その効力に何らの影響を及ぼすものではなく、これを第三者に対抗するためには何らの対抗要件を必要としないものと解すべきである。以上の点に関する原審の判断は正当であり、所論のごとき違法はない。論旨は、独自の見解を前提として原判決を非難するものであつて、採用することができない。

同第二点及び第三点について。

本件買収処分を無効とした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。そして、右判断は、所論引用にかかる当裁判所昭和四二年九月二六日第三小法廷判決の趣旨と何ら矛盾牴触するものではなく、同じく所論引用にかかる当裁判所昭和二九年一月二二日第二小法廷判決は、本件と事案を異にし、適切でない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき、あるいは、原判決を正解せず、その違法をいうに帰し、採用することができない。

同第四点について。

被上告人の上告会社に対する本訴請求は、本件各土地の地上建物の収去を求めるものではなく、単に所有権移転登記の抹消登記手続を求めるにとどまるものであるから、原判示の事情のもとにおいて被上告人の本訴請求をいまだ権利濫用と目することはできないとした原審の判断は、正当として首肯するに足り、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立ち、あるいは、原判決を正解しないでその結論に影響を及ぼさない傍論部分を論難し、原判決の違法をいうものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

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